ポートランドのなぞ
にわかに英語を聴こうなんて気になったのは、今日、英語で行われた講演会に行ってきたからだ。そこで、部分的に通訳のお手伝いをさせてもらったのだけど、ボロがでまくりで、これじゃいかんなぁと思ったのである。特に、数字と背景知識が必要なところになるととたんに弱くなる。
内容は、アメリカのコミュニティの崩壊や社会資本の減退を詳細に論じたRobert Putnamが、positive epidemic of civic engagementと書いているぐらい、市民参加とかNPOの活動が活発化してしまっているポートランドの現状について、Steve Johnsonさんが報告してくれた。Johnsonさんは、社会情報学会の国際シンポジウムに呼ばれているらしいが、その二週間以上前から来日して、各地で講演している。
ポートランドは、アメリカのオレゴン州にある人口150万人(市内50万人)の山に囲まれた街である。この街が、環境に優しい街だったり、自転車がよく乗られている街だったり、公園や交通機関が充実した街になった原因は、いろいろ言われているのだが、実のところよくわかないそうだ。街の変遷を、アクティビストとして見つめ続けてきた(今は大学の先生ですが、いまもばりばり現役のアクティビスト)ジョンソン氏の言葉で特に印象だったのは(これは、参加したすべての人にとってそうだったと思われる)、ポートランドの市民は「環境にやさしい街」とか「市民参加が活発な街」だとかいうストーリーを自分達で作り上げ、育ててきたといっていたところだ。それこそアメリカの社会学者のマートンは、「自己成就的予言」なんて言っていたが、それこそ神話のようなストーリーをどんどん言い続けていたら、自然にそれを求める人たちが集まり、そういう街になっていったという話である。
まちづくりのために、ストーリーを持て!
というかなり抽象的ススメなのだけど、そのストーリーが何十万人の人たちに共有されているのだったら話は別になる。札幌市だったら、どんなストーリーが持てるだろうか。
他にもたくさん示唆的な話があったのだけど、大学の役割や人材育成という点もかなりしっかり話していた。彼曰く、市民参加の機会(opportunity)を与えただけではだめで、人々が知識やスキルを得る教育とそれがまわっていくための価値体系(value system)を取り入れなくては、シニシズムを呼んだり、信頼を得られなかったり、進むべき方向を見失ったりするという。そして、必要な人材はファシリテイティブ(facilitative)なリーダーシップをとれる人たちだという。彼の所属する
ポートランドステート大学は、サービス・ラーニングという考え方を取り入れ、どんどん学生たちに地域の問題を解決するプロジェクトに関わっていかせている。ポートランドには、8000人の学生が毎年入ってくるというから、その人たちがコミュニティに入っていくインパクトは、たとえ一部の学生だけだとしても、大きなものだろう。
学生が学ぶべき能力を表にして説明していたのがわかりやすかった。横軸は能力(capacity)を、1)信念・価値観(beliefs/values)、2)知識(knowledge)、3)技能(skills)の三つにわけれていて、縦軸は、個人→グループ→組織→コミュニティ・社会とサイズが大きくなるごとに必要な能力をマッピングしていた。そのすべてをメモることはできなかったけれど、たとえばスキルは、グループではコラボレーション、組織ではプランニング、コミュニティはパブリック・パティシペーションと必要な能力が分類されていた。大学は知識のところは教えてきたかもしれないけれど、(社会にでてから一番必要かもしれない)スキルについても教えなくてはなならないと言っていた。実際、学生が手がけたプロジェクトでうまくまわっているリサイクルや住宅問題を解決するシステムがあるそうだ。
もう少し詳しく知りたかったのは、市政の内容について。メトロとよばれる委員会か議会か、そのようなものがあるという話は少しだけでたのだけど、市民参加とういう名のもとでも権力は働くはずだし、もしそれがうまくまわっている(ジョンソンさんの言葉だと、continual renewal of the contract between citizens and government)のだったら、その内実はどんなものなのか、聞いてみたい。
社会情報学会のシンポジウムは情報コミュニケーション技術とコミュニティの関係についてしゃべるそうです。12月23日。
今回の来日でずっとボランティアで通訳をやってくださっている岡部さんが作ったウェブページ
http://www5d.biglobe.ne.jp/~okabe/sjohnson/index.html
Science Visualization Contest
サイエンスのヴィジュアライゼーション(視覚化)を競うコンテストのお知らせ。
基本的にどんなものでもいいんだそう。
http://www.nsf.gov/news/special_reports/scivis/index.jsp?id=challenge
Science Fridayが元ネタ。
http://www.sciencefriday.com/pages/2006/Dec/hour2_121506.html
Science Fridayの12/16版は、その他にもカリフォルニアでのナノテク規制の話やクリエイティビティと神経科学の話など、興味深い。
ラーニング・バー@東大
札幌にも来ていただいた 、上田先生が関わるワークショップ@東大のレポートです。
「大人の学び」がテーマだそうです。
http://learningart.net/blog/index.php?entry=entry060924-232017
http://www.nakahara-lab.net/blog/2006/09/learning_bartodai_2.html
すごっ。
TEORI ON など
ずいぶん前にリンクを自分のメールに送っていたのをみつけました。
そういえば、「ヤバイぜ!デジタル日本」を読んだのがきっかけだったかな。
http://www.youtube.com/watch?v=6Ov-aqFe7hE&search=tenori
こんな楽器ほしいですね。販売も考えられているとか。
「ヤバイぜ・・・」の高城さんのラジオ番組、高速会話ですが、おもしろいですよ。
http://www.j-wave.co.jp/original/candybandy/
アートの話とか、メガネ男子の話とか・・・というか、それしか聞いてなかった。
でも、どのバックナンバーもおもしろそう。少なくてもテレビよりおもしろい。
J-waveすげえなあ。でも、北海道にはNorth Waveがあるもんね。
うっぷんシュレッダー池田さんがいるもんね。(ローカルすぎてすまん)
・ ・ ・
いま札幌は雨が降ってます。これで夏が終わるのかなぁ。
ちなみにライジング・サンは今週末。(行かないけど)
サステナビリティ学ってなに?
北大も絡んでいるらしいのですが、よくわからないので、ググってみると、
http://www.ir3s.u-tokyo.ac.jp/top.html
おお、なんかすごいフラッシュ。
しかも、定員1000人のシンポジウムだって。
サステナビリティ学じゃなくって、正確にはサバイバル学でしょう・・・・。
とういうことで、前言撤回。
ちょっとお休みします。
ここの更新をちょっとお休みいたします。よっぽど書きたくならない限り更新しないと思います。でも、ちょっとしたリンク紹介はするかもしれません。秋以降復活予定です。
最近、更新がめっきり減ってきているので、あまり変わりはありませんが、たまに読んでくれる方もいらっしゃるようですので、お伝えしておきます。
では、ごきげんよう。
産学連携と科学の堕落
生協書店のKさんに紹介していただいた本。ネタが豊富で、主張もはっきりしているので、読みやすかったです。現代における知識や科学について、そしてなによりも大学について考えるには、必読の本だと思います。ちなみに原題はもう少したんたんとしていて、内容もたんたんとしています。たんたんとしたなかに、力がこもる、といった感じでしょうか。
その原題は
Science in the private interest: Has the lure of profits corrupted biomedical research?
著者のシェルドン・クリムスキーは、タフツ大学(マサチューセッツにある名門大学のひとつ)の都市・環境政策計画学科の教授だそうです。本書で延々と議論されているのは、研究者(とくにバイオ系)、あるいは大学の「利益相反」の問題です。簡単に言ってしまえば、研究者や大学が企業などと関わりがある場合に、その企業の利益に反し、かつ社会的にも重要な研究結果がでてしまったらどうするのか?という問題です。本書でも例にあげられているように、しばしば軋轢が生じてしまうのですが、研究するためには外部資金の調達はますます重要なものになっているだけに、研究者や大学の経営陣にとっては、とても頭のいたい問題なのです。
クリムスキーの主張は明快です。それは、大学は利益相反の問題をあいまいにしながらうやむやにするのではなく、断固として排除し、「公共の利益」のための科学、大学という特殊な組織の自立性、学問の自由を守らなければ、社会がより大きな損失をこうむると主張しています。「アメリカの研究機関の高潔さを守るということは、グランドキャニオンのような自然資源を、そこに眠っているかもしれない資源を求めての乱掘から守ることである」とまで言い切ります。
「話はわかるけど、もう手遅れじゃないか」と思ってしまう人が多いなかで、ある意味正攻法の主張をしています。彼が本のなかで言っているように、さすが批判精神を担保するためにはじまったテニュア(大学における終身雇用)を持っている先生です。「公共の利益」とか、「批判精神」とか、「学問の自由」とか、机上の空論になりがちな言葉を、現実と結びつけながら魅力的に語っているとおもうし、大学の問題の核心をついていると思います。
日本語タイトルをみただけでは、科学が堕落するから産学連携はやめろ、みたいな乱暴なことを言っているように思ってしまいますが、そうまではいっていません(大きくとらえるとそういうことだと思いますが)。それよりも、大学や知識の社会的役割を考えると現実的にprivate interestに近いところで研究するのは、あまりいい戦略ではないから、違う方法を考えたほうがいいのではないか、という提言だと思います。(それにしても「公共の利益」って感覚として理解することが難しい輸入言葉ですねぇ。)
そして、この本は今後の考察にもつながってきそうです。たとえば、それぞれの事例の歴史的検証をもっと深めていくことや、彼の示している論拠を確認していくこと、そして「学問の自由」について考えを深めていくこと、などです。近場の大学を事例にして考察をすすめていくことも大切かもしれませんね・・・。
湯浅八郎と二十世紀
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4764265826/249-0407723-9756337
湯浅八郎がICUの初代学長だということは知っていたけれど、どんな人だったのかということはまったく知らなかった。
加藤哲郎さんの書評で紹介されていた。